脳出血とはなにか? 出血しやすい部位や体に起こる症状について解説
脳の中ではときに出血が起きることがありますが、症状は脳梗塞と似ていることが多いです。脳出血はなりやすいいくつかの部位があり、それぞれ特徴が異なります。この記事の中では脳出血の診断方法や治療方法、また予防方法についても解説いたします。脳出血がどのようなものか気になる方は、ぜひ確認してみてください。重症化すれば失語症、まひ、鬱などの後遺症が残ることも 脳卒中による寝たきりを避けるためには?
脳卒中は寝たきりになる原因第1位

脳卒中とは「脳にただち(卒)に中(あた)る」という意味で、急に発症する脳の血管の病気の総称で、具体的には「脳出血」「脳梗塞」「くも膜下出血」が含まれます。
中でも、一番発症率が高いのは「脳梗塞」で、脳卒中の約60%を占めます。二番目に多いのが「脳出血」です。
脳卒中は日本人が寝たきりになる原因のうち最も多いものであり、重症化すれば日常生活に大きな支障が生じます。脳梗塞や脳出血を発症すると多くのケースで手足が動かなくなる「運動まひ」や、会話が困難となる「失語症」の症状が出てしまいます。
運動まひなどの症状が重度であれば、自分の力で起き上がることが困難になる方も多いです。そのうえで様々な原因が重なり、運動しない期間が続くと全身の筋肉が衰え、寝たきりとなるのです。
脳卒中自体が重度でなくても、再発すると身体の機能が低下し、寝たきりに近づいていくという場合もあります。
脳梗塞の原因は2種類
脳梗塞の原因は大きく分けて動脈硬化性のものと不整脈(多くは心房細動)による心原性のものがあります。
動脈硬化については喫煙のほか、高血圧、糖尿病、脂質代謝異常といった生活習慣病などの「危険因子」が強く影響します。
脳梗塞は再発するケースもあり、これらの生活習慣病が影響しますので、脳梗塞の発症や再発を予防するためには、これらの危険因子を管理することが重要です。
脳出血のほとんどは高血圧性です。高血圧が原因で脳の中の小さな血管が破綻して出血することで脳が損傷し、症状を出るものです。発症すると重度の運動まひや失語症をとなりことがあり、日常生活に支障をきたします。脳梗塞に比べると再発率は低いです。
脳出血については、こちらの記事もご覧ください。
損傷部位によって後遺症が異なる
脳は大きく、大脳、間脳、脳幹、小脳に分かれています。

それぞれが異なる役割を持ち、神経などを通して連絡を取り合うことで、身体の機能を維持しています。
しかし、「脳卒中」によって血管が詰まる、あるいは出血すると神経が傷ついたり、機能が破綻したりしてしまい、症状としてあらわれます。
大脳は、さらに前頭葉、後頭葉、側頭葉、頭頂葉に分かれています。

前頭葉は物事の判断、感情のコントロール、注意のコントロールなどを行っています。
この部分が損傷すると怒りやすくなったり、注意散漫になったりするような症状が見られます。
後頭葉は視覚機能を司っているため、損傷すると視覚に問題が出ます。
このように脳の損傷部位によってあらわれる症状は異なってきます。
脳卒中の主な後遺症
脳卒中になると「運動まひ」「感覚まひ」「言語障害」といった後遺症があらわれることをご存じの方も多いと思います。
実際、脳卒中を発症した人はこれらの症状に困っていることも多いですが、後遺症には他にも様々なものがあります。
運動まひ
運動するときは、前頭葉の後端に帯状に存在する運動野から目的通りに身体を動かすための指令が出ます。
指令は神経を通して脳から脊髄(脳から背骨に伸びる神経の束)に降り、脊髄から筋肉に伝わることで身体を動かすことができます。
神経は脳から脊髄に降りてくる際に交差するので、脳の左側の前頭葉が損傷すると「右側」の身体、右側だと「左側」の身体に症状があらわれます。
両方とも同時に血管障害が起こることは少ないので、身体のどちらかに異変が起きる場合が多いです。

また、血管障害が広範囲に及ぶと多くの神経細胞が死滅し、手足を動かすことができなくなることもあります。
反対に、軽度なものであれば、手の細かい作業をするときに動かしにくさを感じる程度に収まる場合もあります。
感覚まひ
何かに触れたり、触れられたりしたときなどの「感覚」は、神経を通して脊髄から登っていき、視床という部分で中継され、前端の運動野に並走するように存在する感覚野に伝わります。
そのため、視床や頭頂葉が損傷すると感覚まひが起こります。
感覚機能が少し低下した人からは、「皮のようなものが間に1枚間ある感じがする」という発言がよく聞かれ、それが足の裏だと「浮いたような感覚がする」という人もいます。
運動まひと同様に、片側に症状が出ることが多く、重度であれば全く感覚がなくなる人もいます。
頭頂葉は視覚や聴覚などのあらゆる感覚情報を統合して、運動を司る前頭葉に伝達しています。
そのため頭頂葉を損傷した場合、感覚がうまく統合できなかったり、情報を伝えられなかったりすることで、運動に悪影響を及ぼすことがあります。
視野障害
視覚の情報は、視神経から側頭葉を経由して後頭葉の内側に伝わります。
視神経や側頭葉、後頭葉に障害が起きると、半盲となったり、視野の一部が欠けたりするような視野障害が起こります。
眼には眼球を動かすための神経が3つ通っており、この神経が障害を受けることで物が二重に見えたりすること(複視)もあります。
特に、高齢者の方が視野の障害を起こすと、バランスを保つ筋力も低下しているので、物にぶつかって転倒する可能性が高くなります。

転倒は、「脳損傷」「骨折」などの寝たきりの原因になる事象を引き起こしてしまうので、十分な注意が必要となります。
何か異常があれば、すぐに病院で診てもらうようにしましょう。
嚥下(えんげ)障害
嚥下障害とは、口の中に入れた食べ物や飲み物をうまく飲み込めない状態を指します。
運動まひや感覚まひによって、舌や喉の動きが悪くなったり、飲み込む筋肉が低下したりすることが原因です。
脳卒中になると、気管に入らないように蓋を閉じてくれる「喉頭蓋」の動きも悪くなり、「誤嚥性肺炎」を起こしやすくなります。
嚥下障害が起こると、のどの詰まりや誤嚥性肺炎のリスクが高まる他、食事の意欲が落ちるため、食事量が減ってしまいます。体力や筋力の低下にもつながるので、予防しなければいけません。

また高齢者の場合は、脳卒中の治療経過中に誤嚥性肺炎や窒息によって致命的な障害を負う可能性があります。嚥下障害の評価と治療は脳卒中後のリハビリにおいて非常に重要です。
医師や看護師、リハビリの先生の指導の元、徐々に食べられるようにする訓練が必要です。
失語症・構音障害
失語症とは、左側の大脳にある言語中枢に障害が生じ、「読み」「書き」「話す」「聴く」といったことがうまくいかなくなることを指します。
失語症は「言葉はなめらかに話せるけど聞いたことを理解ができない」タイプ(感覚性失語)と、「言葉は理解できるけどうまく話せない」タイプ(運動性失語)の2つに大きく分けられます。
障害が生じている部分によって症状は異なり、また両方の部分に障害があらわれた「全失語」という症状もあります。
一方の構音障害は、言葉を話すときに運動まひや感覚まひによって、舌や口をうまく動かすことができなくなる障害で、正しい音を作ることができず、不規則・不明瞭な話し方になります。
前頭葉にある言語中枢が傷ついてしまうと、「言葉は理解できるけどうまく話せない」という運動性失語症になります。
この中枢の近くには舌や口の運動を実行する脳の部位があるので、失語症と一緒に構音障害が発生することもよくあります。
また、側頭葉にある言語中枢が傷つくと「言葉はなめらかに話せるけど聞いたことを理解ができない」という感覚性失語になります。
高次脳機能障害
高次脳機能障害は、脳血管障害などによって「注意障害・記憶障害」「失語症」「失行症」「失認症」があらわれているものを言います。
まず、失行症と失認症について説明します。
「失行症」は、運動をする機能に問題はないのに、うまく動作ができない症状を指します。
例えば、洋服を上手く着られない、歯磨きの仕方がわからないといった状態になります。
「失認症」は、感覚機能や注意機能、知能は保たれているのに物事を認識できなくなる症状です。
以上のような高次脳機能障害が引き起こされると、日常生活に大きな支障をきたします。
特に難しいのは本人が自覚しづらいこと。
リハビリすることで一定の回復が見られる方もいますが、その程度は人によって様々です。
身体機能が回復しても、高次脳機能の症状が続くことがあります。
高次脳機能障害については、こちらの記事もご覧ください。
高次脳機能障害とは? 診断基準、間違えやすい疾患は?(医師監修)
高次脳機能障害は病気や事故などのさまざまな原因で脳が部分的に損傷されたために、言語・思考・記憶・行為・学習・注意などの知的な機能に障害が起こった状態です。原因疾患にはいくつか種類がありますが、いちばん多い原因は脳血管障害です。今回の記事では高次脳機能障害の診断基準、特徴、原因疾患などをご紹介いたします。
排尿障害
排尿障害とは、尿を貯めたり排出したりする機能に障害がある状態を指します。
これらの機能は大脳や脊髄など、様々な部分で制御されています。
尿を貯めるときには膀胱を膨らませ、尿道の筋肉は力が入った状態にして閉じておかなければいけません。
反対に尿を排出するときには膀胱を縮めて、尿道の筋肉は弛める必要があります。
この複雑な仕組みを神経が制御しているのです。
もし尿を貯めることが困難になると、トイレに行きたくなります。
脳卒中により運動まひを起こしていると速く歩くことができず、間に合わずに失禁をしてしまうこともあります。
そもそもトイレをしたいという感覚がわからない症状だと、トイレに行こうともせず、失禁をしてしまいます。
失禁は本人のストレスになり、介護者にとっても大変です。
回復が見られるまでは、環境や道具の工夫が必要になることは知っておきましょう。
うつ・感情障害
感情障害には、主に気持ちが塞ぎこむ「うつ病」と、気持ちが過度に高揚する「躁病」の2種類があります。
脳卒中の発症によりうつ病になる人は比較的多く見られます。脳の特定の部位が損傷することでストレス適応力が徐々に低下し、うつ病を発症すると言われています。感情のコントロールを司る「前頭葉」が障害を受けた場合に発症しやすいです。
感情障害に対しては、周囲の支援や環境調整が求められます。
脳出血の後遺症と対策
脳出血とは、脳の組織の中の血管が破れて出血が起こる病気です。
出血により脳が圧迫されてダメージを負うと、運動障害、言語障害、記憶障害、感情の変化など、様々な障害が残る可能性があります。
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障害の種類 |
具体例 |
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運動障害 |
・片側の手足が動かしにくくなる ・手指の細かい動きが難しくなる |
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言語障害 |
・言葉が出にくくなる ・言葉の意味が理解できなくなる |
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記憶障害 |
・数分前の会話が思い出せない ・何度も同じことを聞いてしまう |
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感情の変化 |
・怒りっぽくなる ・1つのことにこだわる ・些細なことでイライラしやすくなる |
これらの後遺症に対しては、早期からリハビリを始めることが大切です。
症状に応じて、専門スタッフの指導のもとで運動機能を回復させる訓練や、日常生活動作の再学習、言葉の理解や発音を取り戻すための言語訓練などが行われます。
感情のコントロールが難しくなった場合には、カウンセリングや薬物療法などでサポートすることも重要です。脳出血の詳細は以下の記事をご覧ください。
脳出血とはなにか? 出血しやすい部位や体に起こる症状について解説
脳の中ではときに出血が起きることがありますが、症状は脳梗塞と似ていることが多いです。脳出血はなりやすいいくつかの部位があり、それぞれ特徴が異なります。この記事の中では脳出血の診断方法や治療方法、また予防方法についても解説いたします。脳出血がどのようなものか気になる方は、ぜひ確認してみてください。
脳梗塞による言語障害やまひへの対処法
脳梗塞によって脳の血流が途絶えることで、言語障害やまひなどの後遺症が残ることがあります。ここからは、これらの後遺症の対処法について見ていきましょう。
言語障害の対処法
言語障害に対しては「聞く」「話す」「読む」「書く」などのリハビリが行われます。
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リハビリ |
具体例 |
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聞く |
日常会話や短い文章を聞き取り、その内容を答えたり選んだりして理解力を高める。 |
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話す |
「身近な物の名前を言う」「簡単な質問に答える」「写真やイラストを見て状況を説明する」など、発話の練習を行う。 |
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読む |
短い文章や案内文などを声に出して読み、文字から意味を理解する力を鍛える。 |
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書く |
「メモを取る」「買い物リストを作る」「短い日記を書く」など、生活にあった訓練を行う。 |
これらのリハビリは本人の状態にあわせた方法で実施されます。
家族や介護者の協力により、日常生活でのコミュニケーションを通じてリハビリを継続することも大切です。
運動まひの対処法
運動まひに対しては、関節の可動域を広げる運動や、筋力を回復させるトレーニングが実施されます。
日常動作の訓練も重要で、片手でスプーンを使う練習や、ベッドから車いすへの移乗動作の練習などが行われます。また、生活する際には以下の点に注意が必要です。
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注意点 |
具体例 |
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転倒を予防する |
・手すりを設置する ・滑りにくい靴やスリッパを使う ・床の段差やカーペットのめくれをなくす |
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まひを補う工夫をする |
・よく使う物は取りやすい位置に置く ・片手でも使いやすい道具(食器や衣服など)を選ぶ |
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誤嚥(ごえん)(※)に注意する |
・食事の姿勢を整える ・少量ずつゆっくり食べる |
※誤嚥:食物などが気管に入ってしまうこと。肺炎の原因になることもある。
精神的なサポートも欠かせません。家族や専門職の支援を受けながらリハビリを継続しましょう。なお、運動まひのリハビリについては、以下の記事をご覧ください。
急性期、回復期、生活期の3段階がある脳梗塞のリハビリ
脳梗塞のリハビリは大きく3つの段階に分けることができます。それぞれの段階にあったリハビリをしっかりと行うことが大切です。
感覚まひの対処法
感覚まひやしびれに対しては、薬物療法による痛みの緩和や、電気刺激、温熱療法、マッサージなどが行われます。
感覚まひがある場合は、痛みや温度の変化を感じにくくなるため、気づかないうちにケガややけどをしてしまうことがあるため、注意が必要です。
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注意点 |
具体例 |
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熱さ、冷たさに注意する |
お風呂や調理の際は、手や足で直接温度を確かめず、温度計を使って確認する。 |
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皮膚の観察を習慣にする |
感覚が鈍い部位は、毎日鏡でチェックしたり、家族に見てもらったりして、赤みや傷がないか確認する。 |
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衣服や靴を工夫する |
締めつけの強い靴や衣服は避け、摩擦や圧迫を減らすことで皮膚トラブルを防ぐ。 |
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環境を整備する |
床の段差をなくす、照明を明るくするなど、事故防止のための環境調整を行う。 |
感覚まひは痛みを感じにくくなるため、むしろケガに気づきにくく危険な状態です。必要に応じて医療機関へ相談して皮膚の保護と安全確保を心がけましょう。
脳卒中のダメージを最小限に抑えるには

脳卒中のダメージを最小限に抑えるには、早期発見と早期治療が大切です。
早期発見、早期治療ができた場合は予後が良好となり、日常生活に早期に復帰できる可能性が高まります。
脳卒中の多くは血管狭窄や脳動脈瘤のように、持っているだけで症状の出ない病変がある日突然大きな脳の損傷を引き起こします。
いったん損傷した脳を完全にもとどおりに回復させることは困難であり、こういった病変の有無を知っておくことは有用です。
その上で生活習慣(食事、運動、睡眠、禁煙)を整え、動脈硬化につながるような基礎疾患(高血圧、糖尿病、脂質代謝異常など)を適切に管理することが、将来のダメージを最小限に抑えることにつながります。
不幸にも脳卒中を発症してしまった場合、脳卒中を受け入れている医療機関の多くは「FAST」という言葉を使って対応しています。
F:Face 顔が歪んでいないか(顔の麻痺)
A:Arm 水平に挙げた両腕を保てるか(上肢の麻痺)
S:Speech うまく話せるか(失語)
T:Time いつから症状があるか(発症から早いほど治療成績が良い傾向)
このような症状が出現した際には脳卒中を疑い、早急に受診をしましょう。
編集部までご連絡いただけますと幸いです。
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28年間の脳神経外科の手術と救急の経験から、再生しない脳という臓器の特性、知らないうちに進行し突然発症して障害を残す脳卒中疾患の特性に対しては「発症させない」ことが最も有効な対策だと考えています。 なるべく多くの方が健康なうちに脳ドックを受診し、問題解決できる環境を提供してゆきたいと思います。