膵臓がんの原因とリスク自己診断|今日からできる予防策

2025/10/27
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膵(すい)臓がんは初期症状がほとんどなく、進行してから発見されることが多いがんです。 この記事では、膵臓がんの主な原因やリスク要因、リスク低下が見込める方法などについて解説します。
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目次

膵臓がんとは



膵(すい)臓がんは、膵臓(胃の裏側にある左右に細長い臓器)に発生するがんです。

早期の膵臓がんは自覚症状に乏しいものの、以下のような症状がきっかけで発見されることがあります。     

  • 食欲の低下
  • 腹痛
  • おなかの張り
  • 腰や背中の痛み
  • 黄疸(白目や皮膚が黄色に変化した状態)
  • 新たな糖尿病の発症、急激な悪化

膵臓がんは進行した状態で発覚する場合が珍しくありません。

膵臓がんには様々なリスク因子がありますが、生活習慣に関係するものありますので、生活習慣の見直しは膵臓がんのリスク低下につながります。

主なリスク要因



膵臓がんの発症には、様々な因子が関与しています。

リスクを高めるとされる代表的な因子は、以下のとおりです。

  • 喫煙
  • 肥満
  • 糖尿病
  • 慢性膵炎
  • 膵嚢胞性病変
  • 家族歴
  • 加齢

1つずつ見ていきましょう。

喫煙

喫煙は、膵臓がんの発症リスクを高めることが報告されています。

主な理由としては、たばこの煙に発がん性物質が含まれることや、膵臓がんのリスク因子である慢性膵炎を誘発することなどが考えられます。

また、喫煙期間の長さや1日当たりの本数が多いほど、リスクが高まる傾向があります。禁煙によって膵臓がんの発症リスクが低下したという報告もありますので、喫煙している方は、1日でも早く本数の削減や禁煙にチャレンジしてみましょう。

肥満

アジア人を対象にした、BMI値と膵臓がんとの関連性を調べた研究によると、BMIが30以上の肥満男性では、膵臓がんの発症リスクが高まるという結果が報告されています。また、BMIが高くなるほど膵臓がんのリスクが上がると報告されています。

糖尿病

糖尿病患者の膵臓がん発症リスクは、一般的な人の約2倍に上昇するという報告があります。また、糖尿病を発症してからの期間が短いほど、膵臓がんを発症するリスクが高まることがわかっており、とくに糖尿病の発症から1年未満は、膵臓がんのリスクが高まる可能性があります。

慢性膵炎

慢性膵炎とは、膵臓の炎症が長期的に続いている状態であり、炎症により臓器が硬くなり、機能低下に陥ります。

また長期間の炎症によって、遺伝子変異が起こりやすくなり、がんのリスクが高い膵上皮内腫瘍性病変 (PanIN)が生じるおそれがあります。

慢性膵炎の代表的なリスク因子としては、飲酒や胆石症などがあります。

主な症状は以下のとおりです。

  • 数か月ごとに繰り返す激しい腹痛
  • 悪臭をともなう下痢
  • 食欲の低下
  • 体重の減少

上記の症状に当てはまる方は、早めに医師に相談しましょう。

膵嚢胞性病変(IPMNなど)

膵嚢胞性病変とは、膵臓内にできる液体を含む袋状の病変を指します。なかでもIPMN(膵管内乳頭粘液性腫瘍)は、膵臓がんへ進展するリスクがあることが知られています。

IPMNは、膵臓がんの家族歴との関連性が高く、加齢にともなってIPMNができやすくなることが指摘されています。

また、IPMNの経過観察中に膵臓がんを合併するリスクもあります。

膵臓がんの早期発見のために、膵嚢胞性病変を指摘された人や家族歴がある人は定期的な検査を受けましょう。

家族歴・遺伝的要因

膵臓がん患者の約3〜9%には家族歴があり、1.7〜2.4倍のリスク上昇が指摘されています。なかでも親や兄弟姉妹、子どものうち、2人以上膵臓がんを発症している家系は、膵臓がんの発症リスクが高く、注意が必要です。

膵臓がんのリスクを高める遺伝的な要因としては、膵炎を引き起こしやすくなる遺伝子変異やリンチ症候群(遺伝性非ポリポーシス大腸がん)などがあります。

年齢

膵臓がんは加齢とともに発症リスクが上昇し、 50歳以降に急増することがわかっています(がん情報サービス「がん統計」)。

がんは遺伝子変異によって引き起こされ、一般的には、傷ついた遺伝子が適切に修復されないことで発症するとされています。加齢や乱れた生活習慣は、遺伝子変異を起こりやすくする要因であり、がんのリスクを高めます。

喫煙習慣や乱れた食生活、糖尿病や慢性膵炎などの基礎疾患がある場合は、さらなるリスク上昇につながるため、定期的に医療機関を受診し、早期発見に努めましょう。

予防とリスク低減



以下の内容に取り組むことは膵臓がんのリスク低下につながるでしょう。

  • 禁煙
  • 体重管理
  • 飲酒量の抑制
  • バランスの取れた食生活
  • 定期的な運動

1つずつ見ていきましょう。

禁煙

膵臓がんを含む喫煙関連がんは、禁煙してからある程度の年数が経てば、発症リスクが非喫煙者と同程度まで抑えられるとの報告があります。

具体的には、膵臓がんに関しては禁煙後5年経過すると、リスクが非喫煙者と同程度になるという報告もあります。

禁煙を成功させるために、以下のような対策を準備しておくとよいでしょう。

  • 吸いたくなった時に気を紛らわせる方法を考える
  • 吸いたくなるタイミングを思い浮かべ、対策方法を見つける
  • 「禁煙補助薬」や「禁煙治療用アプリ」を活用する

禁煙補助薬はニコチンガムやニコチンパッチなど市販されているものもありますし、禁煙外来を受診することで利用できる薬やアプリもあります。そのため、まずは市販薬でがんばってみて、うまくいかない場合は病院の禁煙外来に通って禁煙をサポートしてもらうなど、自身のライフスタイルにあった禁煙の取り組みを1日でも早く始めましょう。

体重管理

肥満の人は糖尿病や高血圧症などの生活習慣病、心筋梗塞や脳卒中になりやすくなります。また、肥満は糖尿病、膵臓がんの発症リスクも高めます。

肥満の解消や予防には、以下のような工夫をして食生活を見直すことが重要です。

  • 食事の内容を記録する
  • 栄養バランスのとれた食事を心がける
  • 食べ過ぎを避け、腹八分を意識する
  • お菓子の間食を控える

無理のない範囲内で、少しずつ食生活を改善して1が月に1kgくらいを目安に減量していきましょう。

飲酒量の抑制

5年以上の飲酒習慣がある場合、飲酒量が多くなるにつれて膵臓がんのリスクが高まるという報告があります。

膵臓がんの予防のためには、一度に飲む量が多くなり過ぎないようにすることと、飲まない日を作ることが大切です。

1日の飲酒量の適量としては、純アルコールで20gとされています。

純アルコール20gの目安を以下にまとめました。

お酒の種類 目安となる量
ビール 中瓶1本(500ml)
清酒 1合(180ml)
ウイスキー・ブランデー ダブル(60ml)
焼酎 1合(180ml)
ワイン グラス1杯(120ml)

この表を目安にして、まずは可能な範囲で1日の飲酒量を減らすことと、休肝日を設けることから始めましょう。

バランスの取れた食生活

食事には主食や主菜、副菜をバランスよく取り入れることが重要です。

分類 主な食材
主食 白米、パン、麺類
主菜 肉類、魚、卵、大豆製品
副菜 野菜、海藻類、きのこ

脂っこい食事や砂糖を多く含むデザート、間食のおやつなどの食べすぎは、メタボリックシンドロームや生活習慣病のリスクを高め、膵臓がんのリスク上昇につながるおそれがあります。

また、早食いを防止するために、ごはんをよく噛んで食べることも重要です。

健康状態の維持のためにも、日々の食生活を見直すことをおすすめします。

定期的な運動

身体の活動量が多い人では、がんの発症リスク低下が指摘されています。運動の習慣をつけることで、肥満の予防に加え、様々な病気のリスク低下が期待できるでしょう。

厚生労働省は、1日30分程度の運動を週2回以上行うことを推奨しています。目安としては、息が少し弾む程度とされており、けがの防止の観点からは過度な運動は控えることが望ましいです。

すぐに運動ができない人は、以下のような日常生活動作における工夫も効果的です。

  • 意識的に早歩きをする
  • エレベーターではなく階段を利用する
  • 車ではなく徒歩で移動する

日常の小さな行動の積み重ねが健康維持につながります。

早期発見の“現実”と受診の目安



膵臓がんは初期症状に乏しく、早期発見が難しいです。

ここでは、受診を検討するべきサインや、受診した際の流れを解説します。

受診を急ぐサイン

膵臓がんは自覚症状が乏しく、症状に気づいた時にはすでに進行しているケースも少なくありません。以下のような症状があらわれた場合には、膵臓がんの可能性があります。

  • 食欲が落ちた
  • 腹痛が続いている
  • おなかが張っている
  • 腰や背中が痛む
  • 黄疸の症状がある
  • 糖尿病の症状が悪化している

ただし、これらの症状は必ずしも膵臓がん特有のものではなく、胃潰瘍や胆のう炎、胆石症、肝臓や胆管のがんなどの状態、病気によって生じる場合もあります。症状だけでは判断が難しいため、このような症状がある場合は早めに病院を受診しましょう。

高リスク者の検査選択

膵臓がんの家族歴がある人や、慢性膵炎や糖尿病、膵嚢胞性病変を指摘されている人などは、そうではない人に比べて膵臓がんのリスクが高くなるため、通常の健康診断に加え、CTやMRIなどの画像検査を定期的に受けることをお勧めします。

血液検査による腫瘍マーカー測定は簡便ではあるものの、膵臓がんがあっても正常値であったり、異常値でも膵臓がんでなかったりするケースもあります。リスクの高い人は、医師と相談しながら定期的な検査の計画を立てましょう。

受診する診療科と検査・治療法について

膵臓がんが疑われる場合、消化器内科を受診しましょう。

膵臓がんの検査では、血液検査のほか、腹部超音波(エコー)検査、コンピュータ断層撮影(CT)検査、磁気共鳴画像(MRI)検査といった画像検査、内視鏡的超音波検査(EUS)、超音波内視鏡下穿刺吸引検査(EUS-FNA)などがあり、病変の有無によって必要な検査が実施されます。

進行度に応じて、外科的手術や化学療法などの治療が検討されます。

膵臓がんは発見が難しいがんですが、早期に見つかれば手術による切除が検討される場合があります。

家族歴や糖尿病、慢性膵炎などのリスク因子に当てはまる方は、一度受診することが望まれます。

検査・診断の流れと限界



膵臓がんの診断には、複数の検査を組み合わせて実施することがあります。ここでは、検査の流れや各検査の概要を解説します。

検査・診断の流れ

膵臓がんの診断では、主に以下のような検査が行われます。

  • 血液検査
  • 画像検査(エコー検査、CT検査、MRI検査など)
  • 内視鏡的超音波検査(EUS)
  • 超音波内視鏡下穿刺吸引検査(EUS-FNA)

血液検査や画像検査で膵臓がんが疑われる場合には、詳しく調べるために内視鏡的超音波検査(EUS)による精査が実施されることがあります。

EUSで病変が確認された場合には、がんであるか調べるために、超音波内視鏡下穿刺吸引検査(EUS-FNA)が実施されます。EUS-FNAで採取した組織や細胞は、病理検査によってがんであるか診断されます。

腫瘍マーカー(CA19-9など)の限界

腫瘍マーカーは、主にがんから産出される特定の物質であり、がんの存在の指標とされています。膵臓がんの代表的な腫瘍マーカーは以下の通りです。

  • CA19-9
  • CEA
  • SPan-1
  • DUPAN-2

血液検査によって測定できるため、簡便で利用しやすい一方、異常値を示していてもがんではないケースも少なくありません。正確な診断をするには、あくまでも精密検査の実施が必要です。

画像検査とステージング

膵臓は胃の裏側にある臓器であるため、病変を視覚的に確認しにくく、診断には画像検査が重要です。

各画像検査でわかることと注意点を以下にまとめました。

  • 腹部超音波(エコー)検査
    膵臓がんの有無や膵管の拡張、嚢胞などの観察ができる
    肥満体型では観察が難しいケースもある
  • コンピュータ断層撮影(CT)検査
    膵臓がんの大きさや位置、血管や周囲臓器への広がり、転移の有無の確認ができる
    詳しく観察するには造影剤の使用が必要となる
  • 磁気共鳴画像(MRI)検査
    主に膵臓がんや膵管拡張の有無、膵嚢胞性病変の経過観察に利用される
    広範囲な撮影は難しい

複数の検査の結果をもとに、膵臓がんの大きさや広がり、病変周辺の血管浸潤や遠隔転移の有無などを確認し、ステージング(病期)を決定します。ステージングをもとに、外科的手術や化学療法などの治療方針を決定します。

EUSとEUS-FNA

内視鏡的超音波検査(EUS)は、先端に超音波プローブを備えた内視鏡を用いて、膵臓の状態を調べる検査です。内視鏡先端の超音波プローブにより膵臓を近接から観察することで、CT検査やMRI検査では確認が難しい小さな病変の発見に役立ちます。

さらに、超音波内視鏡下穿刺吸引検査(EUS-FNA)では、内視鏡を用いて腫瘍や嚢胞から直接細胞を採取し、細胞の状態を調べます。病変部に針を刺して病変を採取するため、出血や膵炎、消化管穿孔(穴があくこと)などの合併症が生じるおそれもあります。

確率は非常に低いとされていますが、リスクを伴うことを覚えておきましょう。

まとめ:膵臓がんのリスクを理解し、予防に努めましょう



膵臓がんは早期発見が難しい一方で、生活習慣や定期検査によってリスクを下げることができます。喫煙や飲酒の見直し、食生活の改善、適度な運動は効果的な予防策です。膵臓がんの家族歴や糖尿病、慢性膵炎などは発症のリスクを高めます。これからも健康に関する正しい知識を身につけて、自分や家族の健康を守りましょう。

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監修医 近藤 直英 (こんどう・なおひで)
JPMDコンサルティング代表取締役
・日本医師会 認定産業医
・日本内科学会 認定内科医
・日本神経学会 神経内科専門医・指導医
2003年奈良県立医科大学卒
名古屋大学大学院で博士号取得
これまでトヨタ記念病院、名古屋大学病院などで臨床、教育、研究に従事。2年半のトロント小児病院でのポスドク後、現在は臨床医として内科診療に携わる一方で複数の企業で産業医として働き盛り世代の病気の予防に力を入れている。また2022年に独立し、創薬支援のための難病患者データベースの構築や若手医療従事者の教育を支援する活動を行っている。

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