悪化すると脳ヘルニアに? 急性硬膜下血腫について

2025/08/19
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急性硬膜下血腫とは、頭部に力が加わることで脳の表面の血管や脳実質が傷むなどして出血し、血腫が溜まった状態のことです。交通事故などで頭部を強く打った場合には、この急性硬膜下血腫が原因で死亡に至るケースもあります。
目次

急性硬膜下血腫とは?


急性硬膜下血腫は、脳を覆っている硬膜の下に出血が起こり、血液が急速に溜まり、脳を圧迫している状態です。
外側から頭蓋骨、硬膜、くも膜、軟膜、脳表という順番で存在していますが、この硬膜と脳表の間で出血しているものを急性硬膜下血腫といいます。

主な原因


急性硬膜下血腫の原因は、頭部外傷によるものがほとんどといわれています。
具体的には転倒や転落、交通事故、殴打などによって頭を強く打つケースがありますが、このほかにも生活の中の様々なシチュエーションにおいて生じる頭への受傷が原因となります。

頭部への外傷により脳表に脳挫傷が起き、硬膜下に血腫を形成するのが典型的な例です。
硬膜とくも膜の間は結合が弱く、血腫が広がりやすいことが知られています。

児童虐待の死因第1位

虐待にともなって急性硬膜下血腫を発症することがあります。乳幼児を乱暴に揺さぶることを契機として外傷が生じることもあり、「揺さぶられっこ症候群」とも呼ばれます。
親の話す内容と受傷している部位、状態が矛盾している場合や、親が子どもに対して無関心な様子がみられる場合には注意が必要です。

高齢者の転倒で注意したい急性硬膜下血腫


高齢者が転倒すると、脳に重大な影響が及ぶことがあります。高齢者は転びやすいうえに骨が弱く、衝撃にも弱いことから、転倒をきっかけに急性硬膜下血腫を発症する可能性があるため、注意が必要とされています。一般的な転倒が、命に関わる深刻な状態になることもあり得るのです。

急性硬膜下血腫の初期症状としては、意識障害、運動麻痺などが見られ、すぐに医療機関で診断を受けることが重要です。特に高齢者の場合、症状が重篤化する傾向があるため、迅速な対応が必要です。身近な方が転倒した際には、即座に医療機関へ連絡し、専門的な治療を受けることが命を救う鍵となります。

高齢者の転倒で注意したい急性硬膜下血腫

よくみられる症状


急性硬膜下血腫は致死率も高く、早期の手術をしたとしても死亡率は50%ほどになるといわれています*。 症状としては、意識障害や、脳の局所障害による症状があります。

①意識障害

受傷の直後にすでに意識がない場合、出血すればするほどに意識が悪くなっていくこともあります。
脳が血腫によって歪んでしまうと、昏睡状態になるといわれています。

②脳の局所障害による症状

血腫で脳が局所的に圧迫されると、その圧迫によって脳は正常に動作しなくなり、局所的な症状が身体にあらわれます。

さらに悪化すると脳ヘルニアといわれる状態となります。
脳幹の圧迫が起こり、瞳孔の開き方で左右差があらわれたり、両方の瞳の瞳孔が開いてしまったりします。
さらに悪化すると循環障害が起こって、生命を維持することも困難になりかねません。

*名古屋市立大学医学部付属頭部医療センター 頭部外傷

検査と診断方法


検査と診断方法

患者さんが運ばれてきたら、まずCTやMRIによって検査を行います。

画像所見としてみられるのは、頭蓋骨に接している部位の三日月状の血腫です。
最初のCT検査で多量の出血が確認され、脳が歪んで脳ヘルニアを起こしそうな場合には、なるべく早く手術を行う必要があります。
もし出血量が大した量ではなくて、2回目のCT(初回から約1~2時間後に行う)で出血量が増えていなければ、経過観察を続けて行います。

急性硬膜下血腫の予後(死亡率・余命)


急性硬膜下血腫は予後が深刻であり、死亡率が高い疾患です。特に高齢者が発症した場合、その余命は限られることが非常に多いです。急性硬膜下血腫の予後は様々な要因に依存し、頭部への衝撃の強さや患者の年齢、発症後の迅速な対応が重要となります。

急性硬膜下血腫を発症した場合、初期治療が早ければ早いほど生存率が高まります。しかし、診断が遅れたり、治療が適切に行われなかったりすると、死亡率は急激に上昇します。一部の研究によると、急性硬膜下血腫の手術後の死亡率は40~60%程度とされています。また、生存した場合でも、記憶障害、判断力低下などの高次機能障害、運動麻痺などの後遺症が残る可能性があるとされ、その場合には生活の質に大きな影響が及びます。

急性硬膜下血腫の余命について具体的な数字を示すのは難しいですが、高齢者の転倒による発症は特に危険です。家族や介護者は、高齢者が転倒した際には速やかに医療機関で受診することが重要です。

急性硬膜下血腫の予後(死亡率・余命)

急性硬膜下血腫で生じる後遺症


急性硬膜下血腫は、適時に診断され、治療された場合でも何らかの後遺症が残ることがあるとされており、日常生活への影響が懸念されます。これらの後遺症は患者の日常生活に重大な影響を及ぼし、回復に長期間が必要となる場合があります。

一般的な後遺症としては、運動機能障害があります。具体的には、歩行困難や片麻痺(身体の片側、つまり左右どちらかの半身に麻痺が生じる状態)などが挙げられます。これらの症状は特に重度な場合、リハビリテーションが不可欠となり、専門医の監督下で長期的な治療が必要となります。

また、認知機能の低下も急性硬膜下血腫の後遺症としてよく見られます。記憶力の低下や集中力の欠如、さらには意識障害が続くことがあります。これにより、社会的な活動や家庭内の役割を果たすことが困難になることが多いです。

その他にも、性格や精神状態の変化も報告されています。これは、脳の損傷が感情制御や社会的行動に影響を与えるためです。患者は鬱病や不安症に陥ることがあり、心理療法や精神科医による治療が併せて必要となることがあります。

急性硬膜下血腫の後遺症は患者だけでなく、その家族や介護者にも負担をかけるため、早期の診断と適切な治療、そして長期的なケアが欠かせません。

治療について


急性硬膜下血腫の主な治療法は、開頭による血腫除去術です。また、治療後に脳が腫れてきた場合には、外減圧術として頭蓋骨を一時的に外す処置が行われます。

慢性硬膜下血腫について知っておきたいこと 治る認知症って何?

慢性硬膜下血腫とは、硬膜とくも膜のあいだで起こる血腫です。転倒などで頭をぶつけてから、1ヶ月ほどして次第に出血してくる病気です。この記事の中では慢性硬膜下血腫の原因、症状、検査と診断方法、治療方法などについて解説いたします。


慢性硬膜下血腫とは、硬膜とくも膜の間に生じる血腫です。転倒などで頭をぶつけてから、1か月ほどして次第に出血してくる病気です。ここからは、慢性硬膜下血腫の原因、症状、検査と診断方法、治療方法などについて解説します。

慢性硬膜下血腫は、血腫が小さければ自然に血腫が吸収されることが期待できるため、薬を服用して様子を見ることもあります。
しかし、血腫の量が多い場合には、頭皮を数センチ切開して頭蓋骨に穴をあけ、そこからチューブで血腫を吸引する穿頭血腫ドレナージ術が行われます。
脳そのものに損傷がない場合には、圧迫を解除する処置によって、障害が残らずに回復するケースもあるとされています。

もし脳そのものに損傷が伴っていると、血腫を除去しても脳が急激に腫脹して、危険な状態が続くことがあります。
この場合には開頭した骨を外したままで可能な限り脳にかかる圧力を逃す手技を行います。

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監修医 鳴海 治 (なるみ・おさむ)
元メディカルチェックスタジオ医師・医学博士

28年間の脳神経外科の手術と救急の経験から、再生しない脳という臓器の特性、知らないうちに進行し突然発症して障害を残す脳卒中疾患の特性に対しては「発症させない」ことが最も有効な対策だと考えています。 なるべく多くの方が健康なうちに脳ドックを受診し、問題解決できる環境を提供してゆきたいと思います。