膝関節症とは
膝関節症とは、膝の軟骨がすり減ることで痛みや炎症が起こる、代表的な関節疾患です。加齢をはじめ、生活習慣や体質など、さまざまな要因が重なって発症します。 膝関節症になりやすい人
膝関節症は、加齢に伴う筋力低下や軟骨の摩耗が主な原因とされ、高齢の方に多くみられます。特に女性は、更年期以降のホルモン変化により骨密度が低下し、膝関節への負担が大きくなる傾向があります。
また、肥満傾向の方は体重増加によって膝に過剰な圧力がかかり、関節の変形が進みやすくなります。スポーツや重労働で膝を酷使する方、過去に靭帯(じんたい)や半月板(はんげつばん)を損傷した方、遺伝的な要因をもつ方も発症リスクが高いといわれています。
膝関節症の主な種類
膝関節症と一口にいっても、原因や症状、治療法はさまざまです。ここでは代表的な4つの疾患を取り上げ、それぞれの特徴と注意点を解説します。
変形性膝関節症
変形性膝関節症は、加齢や過度の負荷で軟骨がすり減ることで炎症や痛み、可動域の制限が生まれる疾患です。高齢になるほど増え、男女比はおおむね1対4で女性に多く見られます。症状が進行すると、骨の変形が目立つこともあります。
発症の初期段階では立ち上がりや歩き始めの際の痛みが中心で、休むと和らぎます。中期は階段昇降や正座が難しくなり、関節に水がたまりやすくなります。末期には安静時痛や膝が伸びきらない状態が加わり、歩行が困難となってしまうのが特徴です。
半月板損傷
半月板損傷は、膝関節内の半月板が欠けたり、亀裂が生じたりしている状態で、若年層から高齢層まで幅広く見られる疾患です。半月板は膝の衝撃を吸収し、関節を安定させる重要な役割を担っています。そのため損傷すると痛みや引っかかり感、膝の腫れなどが起こり、放置すると変形性膝関節症へ進行することもあります。
スポーツでの急なひねり動作や転倒、加齢による変性が主な原因です。かつては切除術がよく行われる治療法でしたが、現在は半月板をできる限り温存する治療が重視されています。半月板損傷を引き起こした場合は、適切な診断とリハビリにより、膝の安定性と機能の維持を目指します。
膝靭帯損傷
膝靭帯損傷は、膝を支える4本の靭帯(前十字、後十字、内側側副、外側側副)のいずれかが、強い衝撃やひねりにより損なわれた状態です。スポーツ中の着地や転倒、交通事故などが主な原因で、複数の靭帯、あるいは半月板を同時に痛めることもあります。
膝の強い痛みや腫れ、歩行困難、ぐらつきなどが特徴です。診断はMRIやX線で行い、軽度であれば装具やリハビリで回復を図ります。前十字靭帯損傷では手術を行うこともあり、段階的なリハビリで機能の回復を目指します。
関節リウマチによる膝関節症
関節リウマチによる膝関節症は、自己免疫の異常により関節内の滑膜(かつまく)が炎症を起こし、膝に腫れや痛みが生じる疾患です。膝には黄色く濁った関節液がたまり、動作時の痛みや階段の昇降のつらさがあらわれます。炎症が強いと夜間にも痛みが続くことがあります。
発症は40〜60代の女性に多いとされ(出典:〇〇)、遺伝的要因や喫煙、歯周病などが関係していると考えられています。朝のこわばり、膝の腫れや熱感、力が入りにくいといった症状が特徴です。進行すると関節の変形や可動域制限を伴うこともあります。早期に医療機関で検査や治療を受けることが大切です。
膝関節症の原因
膝関節症の発症には、日々の生活習慣や体質、加齢など複数の要因が関わっています。
ここでは、膝関節に負担をかける主な原因を整理して見ていきましょう。
加齢による軟骨のすり減り
膝関節の軟骨は、骨同士の接触を防ぎ、衝撃を吸収するクッションのような役割を担っています。成分の多くは水分とコラーゲン線維で構成され、関節の滑らかな動きを支えています。しかし、加齢とともに水分量や軟骨細胞の代謝機能が低下し、徐々に弾力や厚みを失っていきます。
この変化は自然な経年劣化といえますが、軟骨がすり減ると衝撃を和らげる機能が弱まり、骨同士が直接こすれ合って痛みを感じやすくなります。進行すると、膝のこわばりや歩行時の違和感、関節の変形につながることもあります。
肥満や体重の増加による負担
膝は全身の体重を支える関節で、歩行時には体重の約3倍、階段の昇降時には約5倍の負荷がかかります。体重が1kg増えると膝には3〜5kg分の圧力が加わるため、肥満が続くと軟骨がすり減りやすく、炎症や変形を招く要因になります。
また、肥満では太ももの筋力が低下しやすく、脂肪細胞から分泌される炎症性物質が関節内の環境を悪化させます。よって、肥満は物理的負荷と炎症の両面から膝を傷める原因になることがあります。
筋力低下や運動不足
膝関節は体重を支える重要な部位で、歩行や階段の昇降などの動作で常に負荷がかかります。膝関節を支える大腿四頭筋(だいたいしとうきん)やハムストリングスの筋力が弱まると関節が不安定になり、軟骨や半月板に負担が集中して炎症や痛みを招きます。
また、長時間の座位や運動不足は筋肉を硬くし、血流を悪化させます。血流の悪化は、こわばりや可動域の低下を引き起こす原因となるものです。適度な運動やストレッチで筋肉の柔軟性を保つことが膝の安定につながります。
外傷やスポーツによる膝の損傷
膝の靭帯や半月板、軟骨は転倒やスポーツ中の衝撃で損傷しやすい部位です。ジャンプの着地や急な方向転換により過度な負荷がかかると前十字靭帯を断裂することもあり、放置すると関節が不安定になったり、軟骨の損傷を招いたりするおそれもあります。
体重をかけられない、腫れが強い、曲げ伸ばしが困難といった症状がある場合は、骨折や靭帯損傷の可能性があるため早めの受診が必要です。軽い打撲でも痛みが続く場合は内部損傷を疑いましょう。
遺伝的要因や体質
膝関節症は、遺伝的な体質や骨格の特徴が影響すると考えられています。家族に膝関節症を発症した方がいる場合、関節の形状や軟骨の質、ホルモンバランスの傾向が似ているため、同様に発症する可能性が高くなる傾向にあります。
また、生まれつきの体質も関与しています。O脚やX脚など脚の形状が膝への荷重バランスを偏らせ、特定の部位に負担を集中させることがあるためです。ただし、遺伝はあくまで一因であり、適度な運動や体重管理、生活習慣の見直しによって発症リスクを下げることは十分に可能とされています。
膝関節症の主な症状
膝関節症では、痛みや腫れなどの症状が徐々に進行し、生活動作に支障をきたすことがあります。
膝の痛み(歩行時や階段昇降時)
膝の痛みは、立ち上がりや歩行、階段の上り下りといった動作の際にあらわれやすく、初期は階段を下る際に痛みを感じやすい傾向があります。軟骨の摩耗や炎症が進むと、安静時にも痛みや腫れ、重だるさが残るのが特徴です。
進行すると膝がO脚気味に変形し、曲げ伸ばしがしにくくなります。関節の不安定さや筋力の低下により歩行が難しくなることもあるため、早期の運動療法や生活習慣の改善が大切です。
関節の腫れや熱感
膝関節に炎症が起こると、関節内に水がたまり腫れや熱感が生じます。これは軟骨や滑膜の損傷によって関節液が過剰に分泌されるためで、膝に張りや熱っぽさを感じるのが特徴です。
主な原因としては、変形性膝関節症による軟骨摩耗や関節リウマチなどの慢性炎症のほか、痛風、偽痛風、半月板損傷、細菌感染などが挙げられます。炎症が強いと膝が腫れて熱を帯び、痛みを伴います。症状が長引く場合や発熱を伴うときは早めに受診しましょう。
可動域の制限(膝が曲げ伸ばししにくい)
膝の曲げ伸ばしがしにくい場合、炎症、変形、半月板や靭帯の損傷などが関係している可能性があります。特に階段の昇降やしゃがむ動作、長時間座った後の立ち上がりといった際に痛みや抵抗感が出やすいのが特徴です。
主な原因としては、変形性膝関節症や半月板損傷、滑膜炎、関節リウマチなどが挙げられます。膝周囲の腫れや硬さによって動きが制限されるため、早めにストレッチや運動療法を取り入れて柔軟性を保つことが大切です。
膝のこわばりや違和感
膝関節症では、炎症、筋肉および靭帯の硬化により、こわばりや違和感が生じます。起床後など、長時間の安静後に膝を動かしにくくなるのが特徴です。
原因として、軟骨の摩耗による炎症、筋力や柔軟性の低下、関節リウマチ、関節水腫などが挙げられます。初期は軽い不快感でも、進行すると可動域が狭まり動作に支障が出るため、違和感が続く場合は早めの受診が推奨されます。
膝の変形やO脚の進行
O脚が進むと膝の内側に負担が集中し、軟骨や半月板が摩耗して変形が進行します。膝が内側に潰れるように変わり、関節の不安定さが増す悪循環を招きます。
原因には加齢による軟骨のすり減り、半月板の損傷、靭帯の緩み、骨格の個人差などがあります。女性に多いとされる変形性膝関節症では、O脚化とともに関節の隙間が狭まり、痛みや歩行障害が起こりやすくなります。
歩行の不安定感や跛行
歩行時の不安定感や跛行(びっこう)は、膝の変形や筋力低下、靭帯や半月板損傷などで支持力が弱まることにより起こります。進行すると膝の可動域が狭まり、階段昇降や立ち上がり動作の際に痛みやぐらつきを感じやすくなります。
膝が“ガクン”と折れるような感覚は、関節が不安定な状態を示します。放置すると歩行速度の低下や手すりへの依存が増えるため、リハビリや筋力強化により早めに対処することが大切です。
膝関節症の治療法
膝関節症の治療は、症状の進行度や痛みの程度に応じて段階的に行われます。ただし、治療効果には個人差があるため、必ず専門医と相談のうえで治療方針を決定してください。保存療法から再生医療、手術療法まで、主な治療法を見ていきましょう。
運動療法
膝関節症の改善や予防には、薬や注射だけでなく運動療法が重要です。運動によって膝の動きを保ち、筋肉を鍛えることで関節への負担を軽減できます。特に変形性膝関節症については、進行を抑えるために早期からの運動習慣が効果的とされています。
基本となるのは3つのアプローチです。まず、ストレッチで関節の可動域を保ち、筋肉の緊張をほぐします。次に、大腿四頭筋、内転筋、中臀筋などをトレーニングで鍛え、膝を支える力を強化します。最後に、ウォーキングや水中運動などの有酸素運動で体重をコントロールし、膝への負担を減らします。これらを継続的に行うことで、痛みの軽減や歩行の安定につながります。
薬物療法
変形性膝関節症の薬物療法には、外用薬、内服薬、関節内注射の3種類があります。
外用薬は湿布薬や塗り薬で、非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs)により痛みや炎症を抑えるものです。内服薬は、症状に応じて複数の薬を使い分けます。関節内注射は、ステロイドで炎症を抑えたり、ヒアルロン酸で関節の潤滑を助けたりします。
薬物療法は痛みの軽減を目的とするもので、軟骨を再生する治療ではありません。薬物療法と並行して運動や生活習慣の改善を行うことが重要です。
再生医療
変形性膝関節症に対する再生医療は、損傷した関節組織を修復し、手術を避けることを目的とした新しい治療法です。主な方法は以下の3つです。
- 幹細胞治療:脂肪由来幹細胞を注入し、組織の再生を促す治療です。軽度から中等度の患者さんに適しており、入院や全身麻酔は不要です。
- PRP療法(多血小板血漿注射):自身の血液から抽出した血小板成分を注入し、成長因子の作用により修復と抗炎症効果が期待できます。
- 自家培養軟骨移植術:健康な軟骨を採取し、体外で培養して損傷部に移植する方法です。
これらの治療は、進行を抑えながら生活の質を保つ新たな選択肢として期待されています。
手術療法
保存療法による改善が難しい場合には、膝関節の形状を整えたり、人工関節に置き換えたりするなどの外科的治療が行われます。主な手術法は以下のとおりです。
- 鏡視下半月板縫合手術
- 人工膝関節全置換術(TKA)
- 単顆置換術(部分置換)
- 高位脛骨骨切り術(HTO)
これらの手術はいずれも、痛みの軽減や歩行機能の改善を目的としています。保存療法で効果が見られない場合や、日常生活に支障が出ている場合は、医師と相談のうえで手術を検討することが推奨されます。
日常生活での対策と予防法
膝関節症の予防には、日常生活での工夫が大切です。
ここでは、膝への負担を減らす方法や筋肉を鍛える運動など、毎日取り入れやすい対策を紹介します。
膝への負担を減らす生活習慣
変形性膝関節症の進行を防ぐには、日常動作や生活習慣の見直しが重要です。膝を守るための主なポイントは以下のとおりです。
- 膝に優しい動作:正座や階段の昇降を控え、椅子や手すりを活用して負担を軽減する。
- 適度な運動:ウォーキングや軽い筋トレで太ももの筋肉を鍛える。
- 体重が1kg増えると膝への負担は3〜5kg増すため、食生活の改善により適正体重を維持する。
- 栄養バランス:コラーゲンやカルシウム、ビタミンC、Dを摂取して関節を守る。
- 補助具の活用:サポーターやインソール、杖を適切に使用する。
膝への負担を減らす生活習慣を意識することで、痛みや炎症の悪化を防げます。
膝を支える筋肉を鍛える運動
変形性膝関節症では、動かないことで筋肉が衰え、関節の動きが悪化します。痛みがあっても、無理のない範囲で身体を動かすことが大切です。
日常に取り入れやすいウォーキングは、血流を促し、関節の柔軟性を保ちます。また、大腿四頭筋やハムストリングスを鍛えるトレーニングもおすすめです。
これらの筋肉を強化することで、膝関節を支える力が高まり、痛みの軽減につながります。痛みが強いときはストレッチなどから始め、少しずつ運動量を増やしましょう。
まとめ
ここまでの要点をまとめると以下のとおりです。
- 膝関節症には、変形性膝関節症、半月板損傷、靭帯損傷など複数のタイプがあり、原因や症状に応じた治療が必要。
- 主な原因は加齢や肥満、筋力低下、外傷であり、早期の運動習慣や体重管理が予防に有効。
- 運動療法、薬物療法、再生医療、手術療法など、症状の進行度に合わせて治療法を組み合わせることが重要。
膝の痛みを放置せず、自己判断で済ませることは危険です。症状が気になる場合は、早めに整形外科などの専門医療機関で相談し、正確な診断を受けることで、症状の進行を防ぎ、よりよい生活を送ることができます。
【参考文献】
独立行政法人国立病院機構宇多野病院関西脳神経筋センター「リウマチ性膝関節症」( https://utano.hosp.go.jp/section/13_21.html )
https://www.joa.or.jp/public/sick/condition/knee_osteoarthritis.html
https://hosp.juntendo.ac.jp/clinic/department/seikei/disease/disease14.html
https://www.saiseikai.or.jp/?s=%E8%86%9D%E9%96%A2%E7%AF%80%E7%97%87&post_types=diseaseorcolumn