膵臓がんの生存率と最新医療|ステージ別の考え方と治療の選択肢

2025/06/11
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膵(すい)臓がんは早期発見が難しいことから、一般的に予後が悪いことが知られています。部位別の5年相対生存率は男性で8.9%、女性で8.1%といずれも10%を切っており、臓器別で最も低いと報告されています※1
この記事では膵臓がんのステージ分類とその生存率について、さらにそれぞれのステージにおける治療法などについてくわしく解説します。

※1:国立がんセンターホームページ「最新がん統計」
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目次

膵臓がんとは? 特徴と早期発見の難しさ


膵(すい)臓がんは、膵臓にできる悪性腫瘍です。膵臓は胃の裏側に位置する20cmほどの左右に細長い臓器です。
膵臓は膵液という消化液やインスリンをはじめとしたホルモンを分泌する働きがあります。
膵臓がんの主な特徴は、発覚した時点で周囲の血管や他の臓器に転移しているケースが少なくなく、がんの中でも早期発見が難しいことです。

早期発見が難しい理由は、早期には特徴的な症状がなく、自覚症状に乏しいケースが多いためです。
黄疸(皮膚や白目が黄色く変化する状態)のような特徴的な症状が出たときにはすでに進行していて、手術が困難なケースもあります。
また、膵臓が身体の深い位置にあり検査による検出が難しいことも、がんの発見を遅らせる要因の1つとされています。

膵臓がんの生存率は 最新の統計データをもとに解説


膵臓がんは他の多くのがんと比べて生存率が低いことが知られています。新しい治療法の開発や早期発見のための検査の工夫などにより改善傾向にありますが、まだ十分に改善しているとは言えません。

ステージ別の5年生存率
ステージ分類 5年生存率

ステージ0

約85%

ステージIA

約70%

ステージIB

約60%

ステージⅡA

約30%

ステージⅡB

約13%

ステージⅢ

約5%

ステージⅣ

約3%


ステージ0やⅠでは60%以上ですが、ステージⅡに進行すると急激に低下し、ステージⅡAでは約30%、ⅡBでは約13%、ステージⅢでは約5%。最も進行したステージⅣでは約3%まで低下します。

このようにステージが進むほど予後が悪くなるため、膵臓がんは早期発見がとても重要です。そのため定期的な健診がカギになってきます。特に膵臓がんの家族歴がある方や、喫煙者、肥満である方、糖尿病や慢性膵炎などの疾患のある方といった、膵臓がんのリスクファクターのある方は膵臓がんを意識した定期健診を受けることが推奨されます。また、膵臓がんは早期には特徴的な症状や自覚症状に乏しいケースが珍しくありませんので、もしも自覚症状が認められた場合はすぐに医療機関を受診するようにしましょう。

ステージ別にみる膵臓がんの生存率


膵臓がんは病変の進行度に応じて、大きく分けて7つのステージに分類されます。

ステージによって病状や主な治療方法、生存率などが大きく異なるため、それぞれについて解説します。

ステージ0

ステージ0の膵臓がんは、がん細胞が上皮内(膵管の内部)にとどまっているがんです。
がんも小さくリンパ節転移や遠隔転移を伴わないため自覚症状に乏しく、検診で偶然発見されるケースがほとんどです。

ステージ0における膵臓がんの5年生存率は約85%と言われています。

ステージI

ステージIの膵臓がんは、IAとIBに分類されます。

いずれもリンパ節や他の臓器への転移がなく、腫瘍が膵臓内にとどまっている状態ですが、腫瘍の最大径が異なります。

IAでは腫瘍の最大径が2cm以下、IBでは最大径が2cmを超えるサイズとされています。

ステージIにおける膵臓がんの5年生存率はIAとIBで異なり、IAでは約70%、IBでは約60%と報告されています。

膵臓がんの症状としては、腹痛、食欲不振、腹部が張っている感覚、体重の減少、背中の痛み、黄疸、糖尿病の発症や悪化などがあります。

自覚症状に乏しいケースもありますが、2cm以下の膵臓がんがある人の80%以上は何らかの症状を自覚していたという報告もあります。

そのため、上述した自覚症状を認めた場合には、できる限り早めに医療機関を受診しましょう。
また、自覚症状がなくても膵臓がんの家族歴がある方や喫煙している方、肥満である方、糖尿病や慢性膵炎などの疾患がある方は発症のリスクが高いことがわかっているため、膵臓がんに特化した検査が必要です。

ステージII

ステージⅡの膵臓がんは、ⅡAとⅡBに分類されます。

がんが膵臓の外まで広がっているものの腹腔(ふくくう)動脈や上腸間膜(じょうちょうかんまく)動脈に及んでいないケースが、ステージⅡの条件とされています。

ⅡAとⅡBの大きな違いは、リンパ節転移の有無です。

ⅡAはリンパ節への転移がない状態、ⅡBはリンパ節への転移がある状態を指します。

膵臓がんの5年生存率はⅡAとⅡBで大きく異なり、ⅡAでは約30%、ⅡBでは約13%と言われています。

ステージⅡの膵臓がんでは、手術による切除が可能な場合と切除可能境界(手術によってすべての膵臓がんが切除できない)の場合があります。

手術による完治が期待できる場合もあるため、早急な治療が必要です。

ステージⅢ

ステージⅢの膵臓がんは、腹腔動脈や上腸間膜動脈までがんが広がり、リンパ節への転移があるものの、他の臓器への転移はない状態です。

一般的には、ステージⅢでは手術単独による完治が難しく、手術や薬物療法、放射線治療の併用が検討されます。
ステージⅢの5年生存率は約4.7%、1年後の生存率は約37%と言われています。
手術が困難なケースでは、痛みを緩和する目的で化学療法や放射線治療が選択される場合もあります。

ステージIV

ステージⅣの膵臓がんは、がんが他の臓器に転移している状態です。膵臓がんが転移しやすい主な臓器としては、肝臓や肺などが挙げられます。

ステージⅣの膵臓がんの5年生存率は約2.7%、1年後の生存率は約20%と言われています。ステージⅣでは、通常、膵臓がんの切除は選択されず、主に化学療法による治療が検討されます。

ステージ別にみる膵臓がんの生存率

膵臓がんの治療法


膵臓がんの代表的な治療法としては、手術療法や化学療法、放射線治療などが挙げられます。

がんのステージや健康状態を考慮して適切な治療方法が選択されます。

1つずつ確認していきましょう。

手術療法

膵臓がんでは、通常、手術療法による切除が第一選択です。

手術療法は、ステージ0やⅠ、ステージⅡとⅢの一部で選択されますが、周りの血管や臓器へ広がっている膵臓がんでは、選択されないケースが多いです。
また、事前の化学療法や放射線治療で効果が得られた場合に手術療法がおこなわれるケースもあります。

手術方法は、膵がんの発生した部位や大きさによって異なります。
膵頭部(身体の右側にある十二指腸につながる部分)に発生した膵がんでは、胃や胆のう、十二指腸などの切除が必要となるケースもあります。

また、手術の影響で下痢や糖尿病などの症状が引き起こされる可能性もあります。

化学療法

化学療法とは、薬剤の使用によってがん細胞の増殖を抑制したり、破壊したりする治療法です。
膵臓がんの化学療法では主に抗がん薬が使用されますが、分子標的薬などが使用される場合もあります。

化学療法は、通常、手術療法が適用できない場合や、再発予防や生存期間の延長を目的として手術療法の前後に実施されることがあります。
薬剤によって膵臓がんの治療効果が得られなくなった場合には、遺伝子検査によりがんに有効な薬剤を調べ、変更するケースもあります。

ただし、化学療法では正常な細胞にもダメージがあるため、副作用が生じる場合もあります。
薬剤の種類によって副作用の症状は異なるため、前もって副作用の内容を医師に確認しておきましょう。

放射線治療

放射線治療は、放射線を患部に当ててがん細胞を攻撃する治療法です。

膵臓がんの治療では、化学療法と併用される場合があります。

適応としては、手術療法によりがんを取り切れない場合や、手術療法による治療ができないステージⅡの一部やステージⅢ、Ⅳなどが挙げられます。
手術ができないケースでは、がんや骨転移による痛みを和らげる目的で選択される場合もあります。
ただし、放射線治療では、食欲不振や免疫力の低下などの副作用が認められるケースが珍しくないため、体調の変化に注意が必要です。

免疫療法

免疫療法は、身体の免疫力を高めることでがん細胞への攻撃力を維持する治療法です。

がんは免疫を抑制するシグナルを放出し、免疫細胞の働きを弱める作用があります。

免疫チェックポイント阻害薬は、シグナルを妨げることで免疫細胞の活性化をはかり、がんへの攻撃を高めると言われています。

膵臓がんで免疫療法による有効性が証明されているのは一部に限られており、現時点では効果が証明されていない免疫療法もあります。
効果が証明されていない免疫療法は、自由診療としておこなわれているため、治療費を全額自費で払う必要があります。
臨床試験や治験に参加すると費用が補助される場合もありますが、治療によるリスクがある場合もあります。
自由診療としておこなわれる免疫療法に取り組む場合は、事前に主治医に相談して、よく検討したうえで選択するようにしましょう。

膵臓癌の治療法

膵臓がんの告知を受けたときに考えること


膵臓がんは早期発見が難しいがんです。さまざまな検査をした上でがんのステージが判明しますが、診断後に医師から生存率などについて告知を受けることになります。病状によっては生命予後が悪いことを告げられる可能性もあります。

以前は患者さん本人にがんの告知をしないことも多くありましたが、近年は患者さん自身が自分の生命予後や余命などについて知る権利が重視され、告知が行われるケースが多くなっています。

膵臓がんと告知され、治療の選択肢や病気の予後についての説明や、考えられる生存率、余命などについての話を主治医から受けた際に、患者さん本人やご家族の役に立つ情報をご紹介します。

  • 心の整理
    がんの告知や生命予後について説明を受けたとき、一般的に「否認→怒り→取引→抑うつ→受容」の5つの心理過程をたどると言われています。そのため、受け入れるまでには一定の時間がかかります。そのことを知ったうえで、自分の正直な感情に向き合いましょう。

    また、ひとりで抱え込まず、ご家族や周りの信頼できる人、心理カウンセラーや精神科医、心療内科医などの専門家、さらにがん経験者が活動している団体の人などに相談をしましょう。


  • 過ごし方
    自分にとって大切な時間を過ごすようにしましょう。
    家族をはじめ、自分にとって大切な人と一緒にいる時間を優先したり、趣味や旅行などの残りの人生でやりたいことを書き出し、可能な限り達成を目指して取り組んだりするのもよいでしょう。


  • 治療の選択
    積極的な治療を受けるのか、緩和ケア(がんによる身体と心の痛みを和らげ、質の高い治療や療養生活を送ることを目的とした治療)に重点を置くのかをじっくり考えてみましょう。
    患者さん自身の死生観も大切にしつつ、主治医や看護師、ソーシャルワーカーなど専門家から必要な情報を収集し、詳しい説明を受け、相談に乗ってもらえるようにしましょう。


  • 医療費の支援
    がんの治療では、長期的な受診により医療費が高額となるケースが珍しくありません。
    高額療養費制度や傷病手当金制度などを活用し、経済的な負担を軽減する方法について情報収集をする必要がありますが、がん相談支援センターなどの相談窓口を設けている医療機関もありますので早めに相談しましょう。もしもそのような窓口がない場合でも主治医やソーシャルワーカーに相談することができます。

    また、がん保険や医療保険に加入している場合は、支払い条件などについて保険会社に問い合わせてみましょう。


日本人の2人に1人は一生のうちに1度はがんに罹患することが知られており、近年はがん患者に対するサポート体制も整備されてきています。大切なのは患者さんご自身やご家族だけで抱え込まずに、わからないことがあれば主治医や受診している病院に相談することです。

膵臓がん患者さんの体験談


膵臓がんで手術を受けた60代の男性患者は、手術前の詳しい検査を受けた後に医師にこのように話しました。

「検査中、痛みがあったので何度か検査を中断するよう言ってしまいました。けどしっかり検査してもらわなきゃいけないのはわかっているし、もう少し我慢すればよかったと後悔しているんです」

結果的には検査は適切に行われ、難しい手術も無事成功しましたが、患者さんの揺れる心理がよく表れたエピソードです。

まとめ:膵臓がんの情報は信頼できる情報源から得るようにしましょう


この記事では、膵臓がんのステージ分類やステージ別の生存率、代表的な治療法について解説しました。
膵臓がんは早期発見が難しく、進行してから発覚するケースが多い病気です。

膵臓がんの早期発見のための検査法や、新たな治療法の開発が現在も進められていますので、主治医やかかりつけの病院に相談するなど、最新の情報も得るようにしましょう。

一方で、インターネット上には適切でない情報もあふれています。そのため、現在の日本における標準治療や、標準治療を提供している病院などの情報については、学会や国立がんセンターなど信頼のおける情報源から得るようにしましょう。

また、がん全般に言えることですが、がんの治療には心理的な面や経済的な面のサポートも重要です。そのため、患者さんやご家族だけで悩まず、早めに主治医や受診している病院に相談するようにしましょう。
がんを受け入れるには時間がかかる場合もあるかもしれませんが、つらいときは1人で悩まずに誰かに相談してみてください。

記事についてお気づきの点がございましたら、
編集部までご連絡いただけますと幸いです。
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監修医 近藤 直英 (こんどう・なおひで)
JPMDコンサルティング代表取締役
・日本医師会 認定産業医
・日本内科学会 認定内科医
・日本神経学会 神経内科専門医・指導医
2003年奈良県立医科大学卒
名古屋大学大学院で博士号取得
これまでトヨタ記念病院、名古屋大学病院などで臨床、教育、研究に従事。2年半のトロント小児病院でのポスドク後、現在は臨床医として内科診療に携わる一方で複数の企業で産業医として働き盛り世代の病気の予防に力を入れている。また2022年に独立し、創薬支援のための難病患者データベースの構築や若手医療従事者の教育を支援する活動を行っている。