脳萎縮は回復できるのか? 医療と生活の最新アプローチを紹介

2025/06/11
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脳萎縮は、加齢や病気のために脳が小さくなり、認知機能の低下や日常生活への支障を招く病態です。近年は、こうした脳の変化に不安を感じる人が増えており、脳萎縮の予防や回復への関心が高まっています。

現代の医療では、萎縮してしまった脳を元に戻すことはできません。しかし、脳萎縮によって引き起こされる認知機能の低下は、生活習慣や薬物療法などにより抑えることが可能です。本記事では、脳萎縮の特徴や診断方法、治療・予防方法を紹介します。
目次

脳萎縮とは? その原因と症状


脳萎縮とは、脳の神経細胞が減少し、脳が小さくなる症状です。こうした変化は、加齢やアルツハイマー病、脳血管障害などが原因といわれています。脳萎縮の代表的な関連症状とその影響は以下の通りです。

脳萎縮の代表的な関連症状 日常生活への影響

認知機能の低下

  • 記憶力が低下する
  • 日常生活における簡単な計算などが困難になる

行動の変化

  • 急激に性格が変化する(気分の浮き沈みの激しさなど)

身体の異常

  • 歩行困難や手足の震えが生じる

その他の日常生活への影響

  • 通常の家事や仕事などが困難になる
  • 人間関係など社会的な関わりに問題が生じる


上記の症状が現れた場合には、早期の診断と適切な治療が求められます。早期受診は治療の選択肢が増える可能性にもつながるため、早い段階で専門医を受診しましょう。

脳萎縮とそれに伴う認知機能低下の診断方法と検査


脳萎縮の診断は、MRI(磁気共鳴画像)やCT(コンピュータ断層撮影)などの画像検査が一般的です。MRIやCTを用いた画像診断では、脳の大きさや萎縮している部位を確認します。一方、神経心理検査では、記憶力や判断力、注意力などを数値化して評価することで、脳萎縮に伴う認知機能低下の程度を確認することができます。これらの検査結果を総合的に評価し、診断や治療につなげます。

脳萎縮とそれに伴う認知機能低下の診断で使われる検査方法

脳萎縮とそれに伴う認知機能低下を評価するためにはいくつかの検査を行います。検査の順番と内容を以下の表で紹介します。順番はあくまでも一般的なもので、医師の判断により前後する場合もあります。

順番 検査名 検査の内容
1

問診

  • 家族と本人から受診のきっかけとなったエピソードを問診する
2

神経心理検査

  • 質問形式で記憶力や注意力、言語能力などを評価する
  • 一般的に長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)やミニメンタルステート検査 (MMSE)が用いられる
3

画像検査

  • MRIとCTが用いられる
  • MRI:より詳しく脳の萎縮の程度や部位を確認できる
  • CT:緊急を要する場合に用いる
4

血液検査

  • 脳萎縮のリスクになる生活習慣病などの有無を確認する
  • 感染症の有無を確認する
  • 脳萎縮に影響するホルモン量や特定物質の有無を確認する
5

脳脊髄液検査

  • 脳脊髄液内特有の物質を確認する


現代の医療では、これらの多様な検査を組み合わせることで正確な診断が可能となり、適切な治療法を選択できます。

また、特に気になる症状はないものの、自分の脳の状態が気になる方には脳ドックがおすすめです。スマート脳ドックは、脳のMRI検査のために来院するのみで、検査の約1週間後にはPCやスマートフォンで検査結果を確認できます。撮影画像の読影は放射線科と脳神経外科の専門医2人がダブルチェックを行っており、必要時は医療機関への紹介も可能です。

脳萎縮による認知機能低下に対する治療法


脳萎縮を完全に治す方法は現時点では確立されていません。しかし、脳萎縮によって起きる認知能力低下の進行を遅らせたり、現れている症状を軽減したりする治療が、個々の状態に合わせて行われています。日本で行われている認知機能低下に対する治療を以下の通りご紹介します。

認知機能低下の治療法(薬物・再生医療など)

脳萎縮に伴う認知機能低下の治療には、アルツハイマー型認知症などに用いられる薬が有効とされています。具体的には、アセチルコリンエステラーゼ阻害薬やNMDA受容体拮抗薬と呼ばれる薬を用いて治療を行います。アセチルコリンエステラーゼ阻害薬はアセチルコリンの分解を抑えて神経伝達を促進し、NMDA受容体拮抗薬は過剰なグルタミン酸による神経毒性を抑制することで、記憶障害の進行を遅らせます。また、近年では、脳内に蓄積するアルツハイマー病の原因物質「アミロイドβ」を除去することで、認知機能と日常生活機能の低下を遅らせる効果が確認された、抗アミロイドβ抗体薬も注目されています。これらの薬物には、認知機能の低下を遅らせる効果や現在出ている症状を抑える効果が期待されていますが、脳萎縮そのものの回復は難しいとされています。

再生医療においては、新たな細胞を移植し、脳の神経細胞を再生させるための研究が進んでいます。研究段階ではありますが、将来的には脳萎縮の治療法になる可能性があるとして注目されています。

リハビリテーションによる回復アプローチ

認知機能低下の治療の1つにリハビリテーションがあります。身体を動かすリハビリテーションは脳萎縮による認知機能の低下を遅らせる効果があり、認知リハビリテーションは記憶や注意、問題解決能力など日常生活で必要な認知機能を維持するための訓練であり、脳機能の維持に効果があると複数の研究で示されています。このリハビリテーションは、パソコン作業やゲーム、グループでの討議などを通じて行われます。

また、状態に合わせた作業療法も重要な役割を果たします。作業療法では、日常生活での動作や活動を通じて身体機能を改善し、認知機能の回復を促進します。例えば、散歩や塗り絵、人との会話を行うことで認知機能の低下を遅らせ、寝たきりを防ぐなどの効果が期待されています。

リハビリテーションは、個々の状況に合わせたプログラムを取り入れることで、期待する効果が得られるといわれています。まずは専門医を通じて理学療法士や作業療法士などの専門家と相談し、リハビリ内容を決めると良いでしょう。

脳萎縮による認知機能低下に対する治療法

日常生活でできる脳萎縮の予防策


脳萎縮の予防には、規則正しい日常生活を送ることが大切です。紹介する内容を参考に健康的な習慣を取り入れ、脳の健康を守りましょう。

脳萎縮の予防策①:栄養と食事のポイント

健康的な食事は脳萎縮の予防だけでなく、健康的な身体の維持にも不可欠です。バランスが整った食事を1日3食取ることが重要ですが、塩分や糖分、脂質の取りすぎには注意しましょう。脳萎縮を予防するためには、以下の食材の摂取が推奨されています。

脳萎縮予防のための栄養素 栄養素を含む食材

不飽和脂肪酸

  • キャノラー油やオリーブ油
  • 魚類
  • ナッツ

果物・野菜

  • イモ類以外を1日に400g目安で摂取

ビタミンA

  • 人参
  • かぼちゃ
  • ほうれん草

ビタミンC

  • 果物
  • イモ類

ビタミンE

  • ごま類
  • アボカド


ビタミンAとC、Eは細胞の回復を促す役割があり、抗酸化ビタミンと呼ばれています。そのため、脳萎縮を予防するために積極的に取りたい栄養素と言えます。

そして、十分な水分補給も大切です。水分不足は脳血管疾患のリスクを高めます。一度にたくさん飲むのではなく、こまめに飲むことを心がけましょう。

最後に、食事は内容だけでなく雰囲気も大切です。家族でコミュニケーションを図りながら食事を取り、美味しいと感じながら食べることは脳の健康の維持につながるため、ぜひ取り入れてください。

脳萎縮の予防策②:運動とその効果

ジョギングやウォーキング、水泳などの有酸素運動は、脳への血流を増加させるため、神経細胞の成長を促します。実際に週3回以上有酸素運動を行っている方は認知症になりにくいとの研究結果もあります。「しんどい」と感じる運動では脳萎縮の予防効果はないため、ウォーキングなどのきつすぎない運動をおすすめします。

次に、大きな筋肉を動かす筋力トレーニングも脳萎縮予防につながると言われています。大きな筋肉を動かすことは身体の筋力低下を予防でき、認知機能だけでなく身体機能の向上にもつながります。踵あげや簡単なスクワットなどの取り入れやすい筋力トレーニングから挑戦してみてはいかがでしょうか。

さらに、バランス運動や柔軟運動もおすすめです。ヨガやピラティスなどはストレスを軽減し、心身のバランスを整えます。左右で動きが異なる運動を取り入れることも脳の機能を保つ運動になるため、ぜひ取り入れてください。

運動は毎日20~30分、週4~5回が理想的です。また、友人や家族と一緒に運動するとモチベーションを維持しやすくなります。健康的な身体の維持のためにも、ぜひ運動を取り入れてはいかがでしょうか。

脳萎縮の予防策③:ストレス管理と睡眠の重要性

ストレスは、コルチゾールと呼ばれる物質の過剰分泌を引き起こし、脳萎縮のリスクを高めると言われています。そのため、ストレスをなるべく溜めないことが大切です。

ストレス管理には、瞑想や深呼吸、リラクゼーション法などの方法があります。特に瞑想は、ストレスを軽減させるだけでなく、脳の働きを維持できるとされています。また、自然の中での散歩することや、趣味の時間を設けることもストレス管理に有効です。

睡眠も脳の健康維持に重要な役割を果たします。質の高い睡眠は、脳だけでなく身体の疲労回復も促すため、結果的に脳の健康にもつながります。脳や身体の健康を保つための理想的な睡眠時間は6〜8時間です。また、質の高い睡眠のためには、睡眠環境を整えることも大切です。寝室を暗く静かに保ち、快適な温度を維持し、就寝前のカフェイン摂取や電子機器の使用を避けます。

ストレスを管理し、睡眠の質を高めることで、脳の健康を維持しましょう。

日常生活でできる脳萎縮の予防策

最新の研究と今後の展望


脳萎縮については、神経の再生医療の研究が進められており、神経幹細胞やiPS細胞の活用が注目されています。これらの研究は失われた神経細胞を再生できる可能性を秘めたものであり、将来的には脳萎縮によって引き起こされる認知機能低下などの症状の回復につながることが期待されます。また、現段階では非薬物療法としてのリハビリテーションや認知トレーニングが心身の機能維持に効果的であり、脳の活性化や心理症状の緩和につながると示されています。

さらに、最近ではMRIなどの画像解析を用いた最新技術により脳萎縮の早期発見が可能となり、より早い段階での対策をとることも可能になってきています。

さまざまな研究と現在の治療法を組み合わせることにより、将来的にはより精度の高い予防が可能となり、多くの人々が健康な脳を維持できるでしょう。

まとめ:脳萎縮の予防への総合的アプローチ


脳萎縮は、加齢や脳血管疾患などが原因で脳が小さくなる病態で、認知機能の低下やアルツハイマー病と関連があります。脳萎縮の診断にはMRIやCTなどが活用され、画像所見だけでなく神経心理検査の結果を踏まえた総合的な判断により病態が把握され、治療方針が決定されます。脳萎縮に伴う認知機能低下を抑制するためにも、早期発見と予防が大切です。

現時点では、脳萎縮そのものを回復する治療法は確立されていませんが、脳萎縮によって引き起こされる認知機能低下などの症状は、薬物療法やリハビリテーション、生活習慣の改善によって、進行を遅らせたり、症状を緩和したりすることが可能です。

また、再生医療に関する研究も進んでおり、将来的に新たな予防法や治療法が確立する可能性もあります。

日常生活では、栄養バランスの取れた食事や定期的な運動、ストレス管理、十分な睡眠といった基本的な健康習慣を心がけることが、脳の健康維持のためには必要です。まずは健康的な生活を送りながら専門家の支援を受け、できることから取り組むことが、脳萎縮の予防や脳の健康維持につながるでしょう。

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監修医 大竹 誠 (おおたけ・まこと)
横浜市立大学 脳神経外科 医局長、救急科 助教
・日本救急医学会専門医
・日本脳神経外科学会専門医・指導医
・日本脳神経外傷学会専門医・指導医
・日本脳卒中学会専門医・指導医
・日本認知症学会専門医・指導医
・日本脳ドック学会認定医
・日本がん治療認定医機構がん治療認定医
・日本医師会認定産業医
・臨床研修指導医
2007年 東北大学医学部医学科卒業
横浜市立大学大学院医学研究科で博士号取得
救急医療、脳神経外傷、認知症を専門とし、脳卒中・頭部外傷の急性期治療から慢性期の認知機能評価まで幅広く対応しています。ドイツ(チュービンゲン大学 統合神経科学センター)・米国(サウスカロライナ医科大学)での研究経験を活かし、臨床・教育・研究のバランスを重視した医療の実践に努めています。